学長 小田部 黃太

 九州産業大学造形短期大学部は、芸術系短期大学として50年を超える歴史と伝統を持ち、卒業生は1万人を超えています。多くの卒業生がデザイナーやカメラマン、造形作家として、それぞれの分野で活躍しています。

 今日、私たちの暮らしている社会は第4次産業革命やソサエティ5.0などと言われ、大きな変革期を迎えています。また、今日のコロナ禍によって「コロナ後の社会」と言われるようにその変化が加速していくと言われています。新しい時代が皆さんを待っているのです。リモートでの働き方や、AIやロボット、ビッグデータ等の活用によって、人々の生活や仕事も急速に変わっていくのかもしれません。

 多くの仕事がAIやIoTに取って代わられ、クリエイティブな仕事や取り組みが人の仕事として相対的に大きくなっていく。それと同時に、時間に余裕ができてくれば、生きがいややりがい、人生の目的と言ったことが重要性を増してきます。心豊かに、快適な暮らしを送ることが大きな意味を持ってくるのです。未来を予測することはなかなか難しいですが、1つ言えることがあると思います。これからの社会の中で人間に必要とされること、それは「創造力・生みだす力」そして「表現力・発信する力」だということです。イマジネーションの力、クリエイティブなものつくり、表現し伝えていく力、それこそがコンピューターではなく「人間」の力として、ひとりひとりの人生を豊かにし、社会を豊かにしていくのです。今こそ、新しい時代を切り開いてゆくためのスキルとして「造形芸術」を学ぶときなのです。

 では、今必要とされる「造形芸術」の学びとは、いったいどのようなものでしょうか。私はそれには大きく3つの要素が必要だと考えます。

①専門分野を持つ

②総合力を身につける

③社会やその未来を見据える目を持つ

 1つずつお話ししていきましょう。まず①「専門分野を持つ」です。これは非常に大切なことです。自分が何者でどこに立っているのかということが、生きていく足掛かりであり、表現の基盤となることは言うまでもありません。根無し草では人に何かを伝えることはできません。本学でも3領域10系列の専門分野での卒業研究を行い、専門の学びを深めていきます。

 次に②「総合力を身につける」です。今日の社会の重要な要素は「多様性」(ダイバーシティ)といわれています。価値観や生き方も多様になってくるのです。当然、造形表現においても様々な分野が多様に関わり合い、影響し合い、ボーダレスにフレキシブルに展開していきます。自分の専門以外はわかりません、ということでは甚だ心許ないと言わざるを得ません。本学のカリキュラムは1学科3領域10系列という独自のカリキュラムです。1つの学科の中で自由に興味関心がある授業を選択し、分野をまたいで学ぶことができるのです。学んで身につけたことはすべて表現の血となり肉となります。引き出しの多い「総合力」を持ったクリエーターの育成を行っているのです。

 そして③「社会や未来を見据える目を持つ」です。造形芸術を学ぶ学生の中には社会への関心が少ない者もいます。しかしながら自分の世界だけで完結してしまうことは決して得策ではありません。これからは社会の変化を見据え、捉え、自分の専門分野を足掛かりに多様なクリエイティブな取り組みで、社会の問題に創造的な提案を行っていく人材が求められるのです。

 本学では令和2年度から「プライマリーセミナー・未来学」という授業を、1年次の必修科目として開講しました。この授業は「地域共創学部」「理工学部」「経済学部」の各教員から「アートと社会」「AIと社会」「未来のビジネス」等について講義をしてもらうというものです。本学は造形芸術の小さな短大ですが、九州産業大学という大きな規模の総合大学の併設校であり、文系、理系、芸術系の9学部の授業を受講することが出来ます。「造形芸術」をベースとしながら多様に総合的にその学びを広げ、未来の社会を見据え自由に学んでいく短大を目指しています。4年制大学への3年次編入にも力を入れています。

 「九州産業大学造形短期大学部」では「創造力」「表現力」そしてそれを「社会につなげてゆく力」を身につけ、磨き、自分自身と社会の道を切り開いていく教育・人材育成に取り組んでいます。